連休中に今まで読んでいた本を読み返していて良いなと思ったものから。
ちょっと長いですが全文掲載します。
(出典 社長の売上戦略 17~19P 牟田學 日本経営合理化協会出版局 )
『叶匠寿庵という会社がある。
創業者の芝田清次さんは、三十九歳の時に人生を見つめ直し、長年勤めた地方公務員の職を、後わずか三カ月で恩給がつくという直前に辞め、素人の身ひとつで和菓子店を興した。
初めは、饅頭を作って箱に詰め、肩に下げ、観光バスの窓に向かって売り歩いた。その地を這うような苦労から、人情の機微も、商売の酸いも甘いも、人たる者の夢や使命も知り尽くした。惜しいことに、亡くなられて十年ほどになる。
芝田さんは、社長の心を自分の心とし、お客様の喜びを自分の喜びとしてどんな苦労にもめげない社員を育てることに命を捧げた。
ある時、こんなことがあった。京都の哲学の道にある茶室でお菓子を買われたお客様が、代金を払うと、お菓子を置き忘れて、そそくさと帰られてしまった。気づいた女子社員が急いで後を追ったが、見当たらない。機転をきかした彼女は、独りでタクシーに乗り、京都駅に駆けつけた。接客の会話の中から、東京の人で、何時の新幹線に乗るか分かっていたからである。発車のベルが鳴り止む寸前、間一髪で新幹線に飛び乗ることが出来た。
長い長い列車を捜し回り、お客様を見つけたのは、もうすぐ名古屋という辺りだった。お客様は、驚くやら、感謝するやらで、何度も何度もお辞儀を繰り返し、握手を求め、全身で喜びを表現された。疲れた乗客が多く、殺伐とした車内で、その一角だけがパッと光が射したように輝いて見てたという。
お客様が、「きみは、これからどうするんだ」と、目頭を熱くして尋ねられた。
女子社員は、「お会いできて、本当に嬉しかったです。ちょうど名古屋ですので、京都に引き返させていただきます」と、笑顔を残して辞去すると、列車が見えなくなるまで手を振って見送った。
この女子社員は、社長の命令で、そうしたわけではない。自分の機転と判断で、わずか数千円のお菓子を持って、新幹線に飛び乗ったのである。お金では代えられない叶匠寿庵の心が、お菓子に込められていることを、社長と同じように知っていたからである。
芝田さんが、このことを知ったのは、彼女からの報告からではない。お客様が感動を雑誌に綴って、それを送ってくださったからである。
社員がよく育っていないと、社長の想いはなかなか実行されない。苦労人の芝田さんは、和菓子だけを売っているのではなく、商いの道とか心、経営の哲学とかお客様の喜び、そういったものを命懸けで守ってきたわけである。だから、社長の想いが骨身にしみて社員に伝わり、実行されたのだ。
叶匠寿庵の和菓子は、茶の席で日本一とも言われた。発売されて問もなく、大阪の梅田にある阪急百貨店に長い行列ができた。私は、何だろうと思い、二百メーターにもおよぶ行列の末尾の人に尋ねたことがある。それこそ、叶匠寿庵の和菓子を買うための人の列だったのである。
社員がよいと、伝説が生まれる。
芝田さんは亡くなられたが、その遺伝子が今の叶匠寿庵の社員の血の中に脈々と流れ続けていることを願って止まない。「がんばれ!」と、声援したい』
以前に経営理念のお話をさせていただきましたが、この会社で売っているものは単なる「和菓子」ではないのだと思います。
「和菓子 」という形のあるものを通じてお客様に「喜び」とか、「優しさ」とか、「安心感」とか、「信頼」を提供しているのだと思います。
また、それが1社員にまで浸透しているのが素晴らしいことです。いわゆる社風となっているわけですね。
こんな会社になりたいものです。不況なんてたぶん関係ないですね。









